タイム・トラベル

幼少期、父親の趣味で実家の棚に並んでいたVHSの『タイム・マシン(80万年後の世界へ)』や『猿の惑星』などのタイム・トラベルものをよく鑑賞していた。

 

特に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズはテープが擦り切れるほどに何度も観た。

トライエックス ポスター/静物 カラー 91.5×61cm ポスター バック・トゥー・ザ・フューチャー FF-5209

その影響かレトロな車に憧れを持つようになり、ワーゲンバスにいつかは乗りたいと思っている。いざという時は西部劇時代にタイム・トラベルしたマーティのように、鉄板を服の中に忍ばせて弾丸を防ぐつもりでいる。そして、誰かにものすごくムカついてクソ〜〜〜!という気持ちが抑えられない時は、脳内でその人がビフのように牛糞まみれになる妄想をしてスカッとするときもある。実家にタイム・トラベルものの作品が多くあったということは、きっと父親も戻りたい過去があったのだろう。老いも若きも、タイムマシンに乗って過去のいつかやまだ見ぬ未来のどこかへ旅をすることは夢の一つだと思う。

 

もしもデロリアンが自宅の倉庫に眠っていたら、いつの時代に飛ぼうか。

  

  

 

もしも過去に戻れるならば、私は小学生に戻りたい。大人になったいまでも、当時好きだった男の子が夢に出てくるのだ。2年生の終わりに転校してきた転勤族のヒデちゃんだ。すぐに意気投合して、私はヒデちゃん、向こうは下の名前で私を呼ぶ仲になった。小学4年生のとき、一年ぶりに同じクラスになった。その時の担任は小学生の自分から見てもちょっと異常で、頭のおかしいおばさんだった。学期末にはまるで懺悔をさせるかのようにプリントに秘密を書かされ、担任が自分で発案したクラスの文集はいつのまにか話自体がなくなり、空き教室のゴミ箱に途中の段階の文集が捨てられていたのを見た時はゾッとした。

 

ある時、その担任が「女の子を下の名前で呼び捨てにするのは辞めましょう。」と“女子の呼び捨て禁止令”を発令した。

 

あくまでも全体に呼びかけている風だったが、当時女の子を呼び捨てにしている男子は他におらず、ヒデちゃんが私を呼び捨てにすることを暗に禁止にしたのだった。それからヒデちゃんは私を何と呼んでいいかわからなくなったのか、名前を呼んでくれなくなった。自然とわたし達の距離はだんだん離れていき、それまでの仲の良さに急に気まずさや恥ずかしさが生まれるようになってしまったのだ。

 

 

そのままクラスが離れてしまい、遠くに行ってしまったヒデちゃんを気付けばわたしは物凄く好きになっていた。土曜日にはお弁当を持ってわざわざ友達と野球の練習を見に行っていたくらいだった。重い。何度も女友達はわたしの背中を押してくれたけれど、バレンタインのチョコレートもずっと待ってくれていたのに結局渡せずに自分で食べてしまったし、遠足の帰りに今日こそ告白しなよ!と友達が場をセッティングしてくれたにも関わらずトイレにこもってしまったし、雑貨屋さんで買った小さいメッセージカードを書いてみたけれど結局渡せなかった。結局、小学校を卒業し、私が新築の実家近くの中学校に入るため、それっきりお別れになってしまった。

 

 

いまだに、卒業アルバムに書いてもらったメッセージを覚えている。声変わりする前のとっても高くて芯のある声も脳内で再生できる。…私、めちゃめちゃ重い女じゃん。いや、言い訳すると、思い出は美化されていく一方なんだよ。ただ、周りからは全然そう見えない割には、私はかなりの恋愛体質なのだ。

 

中学生になってからは、野球を続けていることと、背が伸びて声変わりして低い声になったことしか知らなかった。中学を卒業して、風の噂でヒデちゃんは市内でも一番頭の良い高校に行ったらしいことを知った。中学生のうちは多少気持ちを引きずっていた私も、高校に入って野球部の先輩と付き合うようになり、いつの間にか記憶も薄れていった。

 

 

 

 

成人式は市内の中学校を卒業した新成人が一斉に同じ広場に集まる。わたしはもみ上げと襟足を刈り上げた赤いボブ頭に、母が成人式の時にもきたオレンジ色の振袖に身を包んで参加した。

 

わたしは中学や高校、予備校の同級生と写真を撮るのに夢中で、知り合いを遠くに見つけては広場を駆け回った。帰り際、小学校の同級生に呼び止められ、そこでやっと小学校のことを思い出した。同級生の女の子達と写真を撮り、「シルコちゃんはこの後のタイムカプセル、開けに行かないの?」と言われたけれど、数ヶ月前に小学校から届いていた往復葉書の不参加に丸をつけて返送したのだった。「この後中学校の同窓パーティーがあって、着替えも忙しいからいかないことにしたの。」と嘘をついた。小学校友達とはどんどん連絡をとらなくなっていたので、行ったところで自分だけ浮いてしまうだろうと思ったから行きたくなかったのだ。

 

友達の向こう側に、ヒデちゃんがいるのが見えた。こっちを見ていた。急に恥ずかしくなって、大学生になったであろうヒデちゃんのスーツ姿を見ることも、ろくに挨拶することも出来ずに、歩きなれない草履でペンギンのようにペタペタ音を立てながら、避けるようにその場を去ってしまった。自分で埋めたタイムカプセルを掘り起こすことを放棄した代わりに、ヒデちゃんの思い出を開封してしまった。

 

 

いままで色んな悔しいことや悲しいこと、恥ずかしいことを経験したけれど、今となればどうってことない。限られたタイムマシンの燃料をわざわざ使って、今からその時に戻って過去を修正しようなどとは思わない。けれど、ヒデちゃんのことだけは未だに気がかりなのだ。バッドエンドが分かっていたら、後悔もクソもないのだが、結末を知らないことは大人になっても一抹の希望を捨てることはなかなか難しい。 

 

 

本当は、タイムカプセルのように発掘した、高校生の終わりから二十歳の頃までやっていたブログの話を書こうと思っていたのに、こんなにおセンチな未練タラタラ女のような日記になってしまった。おばあちゃんになって、さんまのからくりテレビのビデオレターのコーナーに万が一出るような機会があったら、その時はこの思い出をお披露目しようと思う。もし、それまでにタイムマシンが開発されたら、思い切って大事な1回を小学生の自分に告白を実行させるために使うだろう。タイムマシンを使いたくなるって、自分の人生でも一番大切な出来事だったことを証明しているみたいだ。

 

 

 

最後に、オミソ・シルコの選ぶタイム・トラベルの名曲を挙げてさようなら。

 

サディスティック・ミカエラ・バンドも最高アハハン〜。

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僕とスターの99日』でスピッツが主題歌としてカバーしたことで初めて知った。とにかく、言葉選びが、鬼・天才である。

本家並びに、スピッツver.も良い。

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