弾丸金沢旅 〜流動的なサードプレイス〜

 金沢旅行記の続きを書きました。前半はこちらから。

misoshiruko.hatenablog.com

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茶店の窓から射す西日がかなり強くなってきた。日没まであと1時間くらいだろう。

本を読みきったタイミングで店を出る。

 

500円でバスの1日周遊きっぷを買ったけれど、結局まだ1度しか乗っていない。

1回200円だから本当はあと2回は乗りたいところだけど、「1駅分乗るのもなんだかなあ」と思って結局百万石通りのFIRST CABINまで裏道を歩きながら戻る。この日分かったのは、案外金沢はコンパクトにまとまってるということだ。

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宿に預けていたキャリーケースをピックアップし、本日の宿に向かうために金沢駅行きのバスに乗り込む。車内は帰宅時の高校生で混み合っていた。高校生達に紛れてぞろぞろとバスを降り、歩いて宿まで向かった。徒歩3分くらい。

 

1階が居酒屋になっている雑居ビルの3階。エレベーターはないので、階段を登る。荷物の重さ次第では、他の宿をおすすめしたい。

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お洒落な書体でBlue Hourと書かれた脇には青い瓶が並ぶ

わたしは青いものがすきで、服や靴など身の回りのものに青いものを選びがちだ。Blueという文字の並びもなんだか控えめで冷静な感じがして意味もなくすきで、この宿は名前で決めたところが大きい。

 

フロントでチェックインを済ませる。共有スペースが広くすっきりしている。みんなでわいわいというよりも、「個々の好きなように過ごす」ように造られている感じも惹かれたポイントのひとつ。Wi-fiに繋いで作業をするにもぴったり。

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初めは「何故この雑居ビルに?」と思ったけれど、次の景色を見て納得。

なんと、目の前に金沢駅のあの有名な門が見えるじゃありませんか。

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客室。前日のFIRST CABINと比べてしまうと、窮屈さは否めない。でもこれで一泊2,200円なのだから全然あり。今改めて金額を見返して、自分でもびっくりしている。

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ところどころ手作り感が満載で、コストを抑えた部分とそうでない部分が明白だったのが面白かった。ハンガーの部分はもう、重力に負けてしまっているみたい。

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水回りは余計なものがなくて良い感じ。

設備は悪くないけど、お掃除が行き届いていない感じがあったのは少し残念だった。

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この日は一日中歩いて疲れたから、大きなお風呂に入りたい気分だった。調べてみたら金沢駅前のアパホテルに大浴場があるらしい。クーポンを見つけたので、夕飯を済ませたらゆっくりお風呂に浸かって風呂上がりにビールでも飲んでぐっすり寝ようという最高の算段を立てる。3時間で800円、宿代と合わせても3,000円。いいじゃんいいじゃん。かなり出来過ぎた計画だ。夕飯の目星もついたところで、一旦1時間仮眠を取る。押入れの中のような窮屈感がたまらなく最高だ。

 

 

昼寝のあと、軽く身嗜みを整えて、お目当てのおでん屋さん大西茶屋へと向かう。かなり人気なお店らしいので、夕方の開店後にカウンターにサクッと座ってサクッと飲んで、退店したいところではある。すでに座敷はサラリーマンでいっぱいだ。予約席ばかりだったが、かろうじてカウンター席が空いていた。他のお店はリサーチしていなかったので運が良い。サッポロビールが置いてあるお店は結構珍しいので嬉しい。f:id:uminekoblues:20200124175313j:plain
店員のお姉さんに今日のお刺身で一番美味しいものは何かを尋ねていたら、お隣のダンディなおじさんに声をかけられた。話を聞けば、(全国的にみれば)ご近所さんらしいことがわかって意気投合。寝具関係の営業マンだというおじさんには、いままで転勤してきた土地での話を聞いたり、お互いの家族の話をしたりした。県民性の話題になり、私の出身県の特徴を尋ねたら「嫌いな食べ物がパッと出てこない」だと言っていた。なんだそれ。確かに、考えてみたら嫌いな食べ物はあまりないけどさ。

 

遺伝子的にお酒が強い体質でよかった。サッポロの大瓶2本に地酒を6合熱燗で、仲良く飲んだ。普段人に相談をすることはあまりないけれど、旅先で出会った人や居酒屋で隣り合わせた人には気楽になんでも話せてしまうから不思議だ。サードプレイスが大事だとかいつかの記事で言っていたけれど、メンバーが決まりきったコミュニティは退屈で飽きてしまうので、旅先での、この場限りの関係が自分にとってはちょうど良いのかもしれない。

「旅の恥はかき捨て」とはよく言うけれど、潔さがあってすきな言葉だなあと思う。たとえ相手にどう思われようが、どうせ旅の最中の出来事だからどうってことない。人生の長い旅も、そのくらい軽やかに生きていけたら楽なんだろうな。実際はそうもいかないけれど。「父親とは2人で飲みに行けるほどの仲ではない」と話したら、おじさんはおじさんで「娘はお酒に強くないから一緒に飲めない」と言っていて、擬似親子を演じている気分だった。いい意味で、“行きずりの関係”だった。

 

おでん屋を後にし、隣で飲んでいたサラリーマンも道連れに香林坊のカラオケバーに移る。カラオケに来るのは久しぶりだった。たぶん、2年くらい前に高円寺駅前のカラ館に行ったのが最後だ。十八番の『木綿のハンカチチーフ』や、Spotifyのプレイリストからよく聴いている曲を歌った。近くのお姉さんが岡本靖幸を入れていたので嬉しくなって、『だいすき』を歌ったら改めて歌詞の天才さに心臓を撃ち抜かれた。尾崎紀世彦の『また逢う日まで』はかなりウケが良かったのでまた歌おう。近くの飲み屋のママさんらしき人が素敵なハスキーボイスであいみょんを歌っていたのもなんか良かった。そういえば、わたしは最近の曲を全然歌えないな。マスターに経営の話を聞いたのも楽しかった。「金沢に来たら絶対にまた来ます」と固い握手をして店を後にして、すぐお隣にあった老舗のお蕎麦屋さんで締めのざる蕎麦を食べた。金沢駅で、へべれけのダンディおじさんは「またすぐどこかで会うでしょう」と言い、わたしは「そんな気がします。またどこかで会いましょう」と言って、ここでも握手をしてさよならした。

 

あんなに最高な計画を立てたのに、結局、大浴場に行くどころじゃなかった。でも、色んな人に会ってお酒を飲んで歌って楽しい夜だった。どうせ自分の昼寝したシーツだ。メイクだけ落として、そのまま泥のように眠った。

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翌朝、二日酔いで視界がちょっと揺れる。なんだかんだで、やっぱりこのベットはぐっすり寝れた。快適さでいえば圧倒的に1泊目の宿だけれど、熟睡さはこの空間には勝てない。ここに胸高らかに宣言しよう、わたしは純血の庶民である。 

 

 

1軒目の後にお水を一杯飲んでおいたのが効いていて、体調は比較的良好。シャワーを浴びてチェックアウトぎりぎりに荷物を預け、宿を出る。ああ、胃に優しいものが飲みたい。美味しいものに吸い寄せられるように近江町市場に辿り着いた。

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最近で一番良く撮れた気がする一枚

近江町市場の八百屋さんは大根やかぶの種類が豊富な気がする。これだけぎっしり積まれた食材も、夕方にはすっからかんになっているからすごい。以前は気にならなかった気がするが、撮影NGのマークがぶら下がっているお魚屋さんが多かった。 お茶屋さんで、適する温度も淹れ方も全く違う2種類の加賀棒茶を味見させて貰った。美味しい。茎っぽいのが多くて、色が薄い方を買って帰った。語彙力よ。

 

少し場内をふらふらしたあと、「味噌汁、味噌汁が飲みたい。」ともりもり寿しへ。

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金沢に来たら個人的にのどぐろはマストで食べたい。でも“良いお店”に入るほどの予算はない、という時にもりもり寿しはもってこいだ。旅先でチェーン店は邪道かもしれないが、もりもり寿しだけは話が別だ。かなり行列していたけれど15分くらいで入れた。

 

のどぐろ、炙りのどぐろ、白子、がす海老、えんがわ……

本当はカニ汁が食べたかったのに、ケチって海老汁にしてしまったのは後悔している。

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食後の一杯を求め、東出珈琲店へ。ここがこの旅一番の目的地である。

 

カウンターのど真ん中は特等席だった。

棚には瓶に入れられた豆たちが行儀よく並んでおり、一杯ずつ丁寧に段取りよく淹れられたコーヒーがドリッパーからゆっくりと抽出されていくのを眺める。

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後から隣に座ったおじさんに「カメラマンさん?」と声をかけられた。注文を待つ間、おじさんとぽつりぽつり会話をするけれど、昨日のダンディとは違って間の取り方が独特だ。今カメラは趣味でやっているだけだけれど、祖父と伯父が亡くなって撮る人がいなくなったこともあり、なんとなくわたしの番だと感じているところはある。「血筋みたいなものですかね」と話したら、「ああ、血ってあるよね」と急におじさんのテンションが上がったのを感じた。名古屋から蟹を食べに来たというおじさんは車好きらしく、大量のコレクションを見せてくれた。外車ばかりだったので、たぶん只者ではない。そのせいか、お孫さんも車が大好きなんだそうだ。ひとつ飛んで三代目は祖父母の背中を追いかけるものなのかもしれない。


初めて来たお店では大人しくその店一番のおすすめを食べると決めている。

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東出ブレンドと自家製プリン。カップとソーサーの雰囲気は予想していたのと違い、古風でお上品な感じだ。金の縁が美しい。プリンのカラメルはビターで甘すぎず、甘いものが苦手な人間には丁度いい。プリンは人気であっという間に売り切れてしまうらしいのでワタシは最高ツイている、と思った(これは小林聡美さんの著書のタイトルですが)。後からテーブル席に座った人の順番では売り切れてしまっていた。

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窓のガラスの色と照明がどことなくレトロで可愛い

やっぱり、最高にとてもいいお店だった。金沢でコーヒーが飲みたくなったら是非。

 

今日も今日とて食べてばかりだ。

本をもう一冊持ってくるんだった、と思いながら東茶屋街まで散歩をした。

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裏道を縫うように歩く。メンテナンスと思しき人が消雪パイプ(というらしい)の点検をしていて、至るところで水たまりができていた。

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金箔ソフトとか、あんみつとか、そそられるものばかりある。日が暮れて肌寒くなって来て、お茶屋さんへと自然に足が向かっていた。今度はテイクアウトで、本日二回目の加賀棒茶を頂いた。外のベンチで一服していたら、着物を着た大学生くらいのカップルがやって来て、同じようにテイクアウトのお茶をベンチで飲んでいた。「あーっ!」と突然叫んだので様子を伺ったら。買ったばかりのお茶を丸ごと倒してしまったらしい。残念そうな男の子と隣で笑っている女の子の雰囲気がよくて、写真を撮らせてもらった。

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1.5日の金沢旅ももうすぐおしまいだ。

ほとんどの商店がすっかり仕舞い支度済ませた近江町市場で、唯一まだ灯の付いていた八百屋さんでちぢみほうれん草と芽キャベツを買った。横断歩道を渡ったところにある黒門小路で、北陸唯一の蒸留所で作られているというウイスキーウイスキー漬けの梅をお土産に買った。

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希少価値が高いらしく、クラフトハイボールは一本でも結構なお値段で、手が出せたのがこの辺だった。妥協案、みたいな書き方をしてしまったけれど、これがめちゃくちゃに美味しい。梅酒とウイスキーがお好きな方、全力でおすすめします。むしろ一緒に飲みましょう。

 

三郎丸蒸留所、施設見学もやっていて試飲などもできるらしい。最高じゃん。

次の旅の候補が富山に決まりつつある中で、この旅行記を締めたい。

 

 

写真:著者撮影(Olympus E-M10 Mark IIIを使用)

www.wakatsuru.co.jp

ワタシは最高にツイている

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