重炭酸タブレットとモノポリー

この間、正月のお飾りを買うついでに無印で買ってきた「おやすみ前の薬用重炭酸タブレット」を使ってみた。顔を近づけるとむせるほどは炭酸が出てこないが、背中を軽く指でトントンされているくらいにじんわりと泡が出てくる。なんとなく自分を労っている感じがして気に入った。

重炭酸タブレットは、中に3つのタブレットが入っていて、てっきり一回一錠使う物だと思っていたら、説明書には「180ℓのお湯に対して3錠使ってください」と書いてあった。いつも溜めるお湯の量は140ℓ。40ℓオーバーしている。単純計算すると1錠で60ℓ、2錠で120ℓなのだから、近いのは120ℓだよなと思い、一錠を残して使う。我ながら貧乏性だなと思う。

あいにく近場に無印もないし、残りの一錠が湿気てしまいそうなので、翌日、追い焚きをした湯に残りの一錠を追加しようと風呂場に入ると、重曹特有の香りがした。

 

わたしはこの香りを嗅ぐとモノポリーを思い出す。

モノポリーとはアメリカで生まれたボードゲームで、不動産を取引して資産を増やし、他のプレーヤーを破産させるというゲームだ。

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小学校に上がってから、わたしは両親(というか父親)からまともに娯楽を与えられたことがなく、小型ゲーム機の一台も買ってもらえなかった(たまごっちも!)。その代わり、ゲームボーイのような形をした、ボタンを押すとなかの輪っかがぷかぷか浮いて枝に刺さる……という地味なおもちゃで遊んでいた。切なすぎる。

 

おそらく、というか確実に、我が家には検閲機能があって、父親の教育方針に従わないものは家に立ち入ることを許されていなかった。

その父の検閲を掻い潜るようにして、伯父は毎年のように色んなボードゲームをプレゼントしてくれていた。父親は紙物には甘かったので(父の学校にあった『ブラック・ジャック』は全部借りてきてくれた)、ボードゲームもそのうちに入ったのかもしれない。

 

対戦相手は主に姉。モノポリーはゲームの盤自体はシンプルなのだが、子供だけで遊ぶにはルールが難しくて、始めても途中で飽きてしまうことが多かった。逆にわたしたち姉妹は人生ゲームにハマっていて、平日であってもよく夜中にこっそり起きてはやっていた(母が二階に上がってくると布団の下に無理やり隠したりして)。

人生ゲームがプラスチック製の車に人間型のピンを刺すのに対して、モノポリーの駒は銀色で、アイロンや帽子、船などの変わったモチーフが多く、ずっしりとした重みがあった。その金属製の駒がなんとも言えない香りを放っていて、開くたびに不思議な香りが鼻にこびりついた。

 

ある時、シンクの汚れには重曹クエン酸を使うと良いと聞いて重曹を使ってみると、モノポリーの駒と同じ香りを放っていることに気が付いた。それからというもの、重曹の香りを嗅ぐたびに、あの銀色の駒と、モノポリーをいまいち楽しみきれなかった苦い記憶を思い起こす。

 

伯父はその後もことあるごとに色んな物を贈ってくれた。それはまるで刑務所の差し入れに近かった。名作を題材にした漫画シリーズや、手塚治虫の『ブッダ』や『火の鳥』。不勉強だったので、もらった当時はほとんど手をつけなかったが。

 

今年で伯父が天国に行ってから8年になる。天国に検閲機能があるか分からないが、出来ることならば伯父にも何か娯楽になるものを差し入れてあげたい。

 

William WarbyによるPixabayからの画像