2024年元旦

年が明ける瞬間は『ゆく年くる年』を見て迎えた。

その数時間前まで、わたしはトイレにこもり腹痛と戦っていた。焼き蟹、お寿司、ローストビーフ、スパークリングワイン。大晦日に食べたご馳走すべてが流れていった。なんとか精気を取り戻して迎えた2024年。日付が変わり、三十分ほどしてから床に入った。

 

元旦。ポストに郵便物が投函された音で目が覚める。ポストの中を確認すると輪ゴムで束ねられた年賀状が入っていた。その間に自分の旧姓の苗字を確認すると、輪ゴムを外さないまま玄関に置いた。元旦から父親の直筆を見たくない。

 

まだ胃の辺りがざわざわする。ケトルでお湯を沸かして胃を温めた。コンロを見ると、大晦日に食べようとしていた蟹は、配偶者の手によって蟹鍋に姿を変えていた。

 

蟹鍋。美味しい。そして胃に優しい。元旦の食事がまさか鍋になるとは思っていなかった。足の部分はポン酢で食べ、身に付いている部分は蟹スプーンでほぐし、卵を解いて残りは蟹雑炊にして食べた。なんとも贅沢な食事であった。

 

そのあと、近所のケーキ屋で買ったショートケーキを食べる。大晦日まで近所にあるお気に入りのケーキ屋が開いているのは有難い。クリスマスにケーキを食べなかったので、代わりに元旦ケーキ。ケーキはいつ食べたって良い。

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お腹もいっぱいになり、眠気が襲ってくるとそのままリビングのカーペットにゼットライトソルを敷いて横になった。少しスマホをいじってから眠りにつく予定だったが、目が冴えてしまい、スマホをいじり続けていると、地震予報の通知が入った。

 

始めは横になっていたが、横揺れが大きくなる。咄嗟に身体を起こして文鳥のケージが乗っている机を押さえる。こういう時に備えて、机と壁の間に揺れを軽減する専用スポンジを挟み、机とケージは荷締めロープで固定してある。ケージ自体はほとんど揺れなかったが文鳥たちは呆気に取られている様子だった。

 

しばらくすると震源地がわかる。能登。数年前にも大きな地震があった場所だ。また来たんだと思った。始めは震度6強だったが、しばらくすると震度7に情報が訂正されていた。

 

寝室で仮眠をとっていた配偶者もリビングへやってきた。テレビをつけるお正月ムードはすっかりなくなっていて、番組タイトルはそのまま、どのチャンネルも番組内容を変更してキャスターが地震の情報を伝えている。

 

NHKにチャンネルを回すと、アナウンサーが語気を荒げて視聴者へ非難を呼びかけていた。テレビを見ている場合ではありません!という趣旨の発言はこれまでのテレビでは聞いたことがない警告だった。

 

揺れの大きい場所のライブカメラが交互に写されていく。この辺りから自分の中で時間の感覚が失われていく。今日が元旦であるということも忘れる。目の前の映像にマイナスな変化が起こることを恐れ始める。

 

X(Twitter)には情報が溢れていく。本物らしき津波の映像。3.11の時の荒れた海の映像。津波が来るから家族に逃げようと声をかけるもまともに話を聞いてくれないと怒る人。被災地の人々にとって有益な情報と見せかけながらいいねを稼ごうとする人。偽のアカウントでコピペした救助要請を拡散する人。余計な投稿を止めるよう悪質な投稿者に怒る投稿を続ける人。

 

こういう時、優先的にツイートするべきは有益で正確な情報を発信できる専門的な知識のある人や拡散力の大きい著名人(=有名であれば正確というわけではない)だと思っていて、静かにしていることが安全な地域にいる人間ができる最大限のことだと思う。「避難のために常備しておくものリスト」を拡散しても、今避難が必要な人がそれを見ている余裕はないだろう。余計な情報を増やさないことも協力のひとつの形だと思う。

 

テレビの前に張り付きながらXを眺めていたら、一ヶ月くらい治っていた胸の痛みが再び始まった。身体が無理だとSOSを発している。映像を見て悲鳴に近い声を上げると、配偶者に「じゃあ見なければいいんじゃない」と言われたので、感情が波を立てるのをやめ、「それもそうだね」とコップにお湯を注いでリビングを離れた。

 

 

ベッドに入り、文学フリマで購入した亀石みゆきさんの『死ぬのが怖くて死にたくなった日記』を読む。

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活字は自分の読みたいところまで自分の好きなテンポで進めることがありがたい。病気のことを打ち明けた翌日に直接会いに来てくれるK子さんと外科のY先生の誠実さに、なぜだかわたしが勇気付けられて涙が出る。(その後Xを拝見して闘病が続いていることを知る。何よりも、どうか亀石さんの病気が良くなりますように、と陰ながら願っております。)

 

一時間ほど自室で過ごしたあと、リビングへ向かうと、お腹が空いていることに気付く。配偶者がマクドナルドに行くことを提案してくれたが、お惣菜が食べたくなり、地場のスーパーSへ向かうことになった。元旦なのに当たり前のように開店しており、駐車場はほぼ満車だった。ピザやぶりのお寿司、ポテトサラダなどを購入してお腹を満たした。その後、薬を飲んで早めに布団に入った。