エッセイ

桜の降る頃

生ぬるい風が吹き始めた頃、車高の低い黒塗りのセダンがEvery Little Thingの『スイミー』を爆音で流しながら走り去っていった。わたしにはまるで春の到来を知らせる鐘の音のように聴こえた。 春になると無性に聴きたくなる曲がある。JUDY AND MARYの『散歩…

記憶の棚のスノードーム

喫茶店では普段ブラックコーヒーしか頼まないわたしが、ドトールの温かいハニーカフェオレを飲みたくなる時、季節がまたひとつ前進したことを実感する。 夕方のドラッグストアで、はちみつを手に取った。数日前からはちみつの染みたバタートーストが食べたく…

クルミのスコーンと幼なじみ

初めて焼いたあの日から、スコーン作りが日曜日の朝のルーティンになり始めている。 misoshiruko.hatenablog.com いままではホットケーキが一番楽だと思っていたけれど、洗い物が案外出るのが難点だった。それに比べて、スコーンは洗い物が圧倒的に少ない。…

駄作チョコレートのラストチャンス

小学生の頃から、お菓子作りには全く興味がなかった。姉は器用に市松模様のアイスボックスクッキーやトリュフ、ブラウニーなど「お菓子作り」と胸を張って言えるようなスイーツをよく作っていたが、一方のわたしはコタツでぬくぬくしながら「よくやるなあ」…

舞鶴、伯父が働いていた街。

舞鶴。京都の北の端にある、日本海に面した海の街。 直接的な関わりはないが、関東で生まれ育ったわたしにも所縁のある街だ。 わたしの伯父は、およそ4年前に突然死んだ。 仕事帰りに母親から滅多にこないEメールが入っていたので開封したら、そこには伯父が…

わたしに一番近かった東京「浅草」

北関東の片田舎出身のわたしにとって、東京は近いようで遠い街だった。 年に数回、甲信越地方にある祖父母宅へと向かう道中に通り過ぎるだけで、東京が目的地になることはほとんどなかった。首都高をぐるりと覆う防音壁から垣間見える東京の街並みを頭に焼き…

ちょうどいい誕生日の過ごし方

世の中には大きく分けて二種類の人間がいる。誕生日を盛大に祝って欲しい人間と、そうでない人間だ。 誕生日、誰しもが一年に一度必ず経験しなければいけないイベント。正確にはイベントと呼ぶほどでもない、ただ “同じ数字が充てがわれた日” が365日後に来…

鯖缶、姉、ポラロイドカメラ

先週末から39℃の高熱でダウンして、一週間の半分を布団の上で過ごしてしまった。病院に行ったら今流行りの手足口病だと診断された。どうやら先日のプールで貰ってきてしまったらしい。お医者さんには喉に斑点ができていると言われた。診断を聞いていたかのよ…

ブログ・タイム・カプセル

このところ、PCのハードディスクや写真のデータを整理していたら懐かしいものを発掘した。高校時代のユニフォームをきた集合写真や成人式の振袖姿、大雪が降った日にルームメイトと作りに行った大きな雪だるま、学校帰りに寄った喫茶店のクリームソーダ、東…

ブルースだって高らかに歌ってやろう

わたしの一番好きな色はブルー。 宇多田ヒカルの『BLUE』という曲が好きだ。 BLUE 宇多田ヒカル J-Pop ¥250 provided courtesy of iTunes 女の子に生まれたけど、私の一番似合うのはこの色。 その日の気分やラッキーカラー、マイムーブのような短期間の色の…

いちごのショートケーキ

先日、前々から気になっていた四条大宮のフルーツパーラーとやらに行ってみようと思い立った。だが、気付けば閉店の時間を過ぎていたので、その代替案として京都のねじりまんぽからほど近くにある老舗洋菓子店へ寄った。わたしはそのお店に漂う “古き良き洋…