ラッキーカラーは白

なんだかんだ言って、人は占いが好きだ。わたしもそのうちの一人だ。友人にも、ちらほらこの前占いに行ったとか手相を見てもらったとか、駅前のあの占いの館がいいとかそんな話をたまに聞く。

でも、生まれてこの方わたしは面と向かって誰かに占ってもらったことがない。目の前の自分一人に向かって、占い師に「あなたはこういう人間です」「あなたにはこういう未来が待ち受けています」なんて言われたら、右にも左にも動けなくなってしまいそうだし、一語一句を思い出しては夜に一睡もできなくなってしまいそうで怖いからだ。

 

それに対して、今日の占いとか今週の占いは、対象が月別や星座別にざっくり分けられているから、自分一人に向けられているという感覚が薄くて、軽い気持ちで受け取ることができる。だって、同じ月生まれの人が今日全員みんな同じように良い出会いがあるとか、良かれと思ったことが空回りするとかそんなことあり得ないだろう。運勢がいい日にだって、悲しいことが起こる人には起きてしまう。内心こんなことを思いながらも、誕生月が1位だった日は良い出来事を期待して一日を過ごす自分もいる。

 

 

あれは週末のこと、友人とオンラインで昼から飲む約束をしていた日のことだった。朝起きて、ベッドに横になりながらカメラロールをいじっていると、今週の占いのスクリーンショットが目に入る。見返すと最後に「ラッキーカラーは白」とあった。

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白か……。白は自分にとって一番縁遠い色である。白いシャツはデザイン違いで5枚ほど持っているが、それを主役に服を選ぶことはほとんどない。関わりの深い色といえば、(ブログにも何度か書いているが)わたしは昔からずっと青が好きで、クローゼットに並ぶ服は青系統のものばかりだ。それに加えて、その時々でブームになっている色もある。いまはオレンジやグリーンなど、柑橘類のような爽やかな色が好きなターンに入っているが、これまでに赤や黄色が好きという時期もあった。とにかくはっきりしている色が好きなので、まっさらな白が好きな色になった時期は多分一度もないだろう。

 

そして、飲み会の時は決まってネイビーか黒の服を着ると決めている。いわば飲み会のドレスコードのようなものだ。何故なら、酔うと液状のものを倒す&こぼすというどうしようもないクセがあるからだ(おそらく遺伝)。でも今日のラッキーカラーは白。いつもなら絶対にネイビーか黒を選んでいるこのタイミングで白を選んだらどうなるのか?そんな考えがふと頭をよぎる。

 

服も飲み物も「いつもの」があるとついそれを選んでしまうし、他のものを選ぼうという意欲は自然に消滅する。人間は変化を恐れる生き物なのだろう。現状維持は心地いいが、時には「いつもの」を変えてみる勇気も必要か?大判焼きに押された焼印のように、脳裏には「ラッキーカラーは白」がこびりついて剥がれなくなった。

 

黒地に白ドットの開襟シャツを羽織るのをやめ、引き出しから白地のTシャツを手に取る。マーチングバンドが描かれた2019年の京都音博で買ったお気に入りのTシャツだ。今日はいつもと思考を変えてこれを着よう。服の色ごときといえばそれまでだが、何か面白いことが起こるかもしれない。

 

ろくに昼食も食べずに約束の時間が近づいてきた。慌ててパスタを茹でてレトルトのミートソースを温めた。ちょっとはお腹に入れておかないと…と半分ほど胃袋に放り込んでから、画面越しに友人と対面した。

 

 

最近、近くの酒屋でチャミスルを全種類取り扱うようになった。これまで10km先のスーパーまでわざわざ買いに行っていたので、神……と思いながら購入したすもも味をこの時のために冷やしておいた。「見てよ、すもも味買ってきたんだ」とニヤニヤしながら、画面の向こうでマスカット味を飲む友人に見せびらかした。

 

オンライン飲みは部屋着で参加できてすぐに寝れる気楽さが魅力だが、如何せんつまみを自分で用意しなければならないのが難点だ。話が盛り上がるとついつい食べ物を追加するのを忘れてしまう。どんどん食べることを忘れてお酒のペースばかりが上がっていく。とくとくと音を立ててグラスに注がれる液体に耳すらも酔いしれていた。

 

夜も更ける頃、気付けばお風呂場の床にべったりと座り込んでいた。驚いたことに、部屋着のスボンは脱ぎ捨ててあった。何があった……?一瞬ゾッとして記憶を辿る。携帯の充電は切れているし通話はとっくに終わっているようだった。景色がぐるぐるして胃のあたりが気持ち悪い。うっすらと直前の記憶が思い出され始めた。トイレの床を必死に拭き、ズボンを水で洗っている映像が流れる。お風呂場の鏡に映る自分の姿をみると、お気に入りだった音博の白いTシャツにはオレンジ色のシミが出来ていた。

 

調子に乗って飲みすぎた。外出が減ってからほとんどお酒を飲む機会もなくなって、家でもノンアルコールで満足していたので完全にペース配分が狂っていた。起きてから胃に放り込んだはずのものは予定よりも早々にすべて放流されてしまったらしい。

 

明らかに自分が悪い。ペース配分を間違えたのも、つまみを十分に用意しておかなかったのも、自分が蒔いた種であることに間違いはない。でももうこれからはラッキーカラーなんて信じない。今週の占いがわたしに何色を勧めてこようとも、わたしは飲み会にはネイビーか黒の服を着るのだと心から強く誓ったのだった。