わたしの姉ちゃん

最近観た中でお気に入りのドラマがふたつある。『僕の姉ちゃん』と『姉ちゃんの恋人』。前者は黒木華さん、後者は有村架純さんが姉ちゃん役をやっていて、どちらも弟視点でストーリーが進んでいく。

『僕の姉ちゃん』は姉ちゃんのファッションや音楽、特に晩酌シーンがたまらなく良くてつられてビールを飲みたくなってしまう。オープニングがハンバート ハンバートなのも素晴らしい。姉ちゃんは時たま、さえない・恋愛下手の弟に対して独特の人生訓や恋愛への持論を展開する。弟に対して基本的に塩対応な姉だが、落ち込んでいる弟を見かねてシュークリームを買ってくるシーンはふたりの関係性をよく表しているなあと思った。

 

『姉ちゃんの恋人』は弟たちがあまりにも出来すぎていて、弟が姉を好きすぎるので(姉が有村架純ちゃんだったらそうなるのかもしれない)、姉弟関係はファンタジーとして楽しんだ。メインは姉ちゃんと姉ちゃんの恋人の話なのだが、なんと言ってもサイドストーリーが面白い。特に小池栄子さんと奈緒さんの演技と役柄が抜群で、同僚になりたいし親友になりたい。

どちらの作品にも共通するのは、言うまでもなく姉ちゃんが主人公だということだ。兄弟姉妹は親とはまた違う距離感のある家族で、案外知っているようで知らないことも多い。

 

わたしも自分の姉ちゃんに久しぶりに会った。

大学時代の友人の結婚式に参加するために近くまで来るというので、ついでに会うことになったのだ。最後に会ったのはおよそ3年前である。

姉の結婚式が終わる頃を見計らい、式場近くまで車で迎えに行く。式がお開きになったと連絡を貰ったので、「そこに行くから待ってて!」と伝えてから式場付近へ歩いていくと、人を待っているらしき女の人が立っていた。

どことなく姉に似ている気がするけれど、目があったはずなのに何も反応しない。半径2メートル以内をそのまま通り過ぎるも、その人は遠くを見つめているだけでわたしに見向きもしない。ただの人違いなのだろうか。結婚式に来ていた他のゲストかもしれない。

マスクをしているので、判断材料になるのは目元と全体のフォルム、髪型、雰囲気あたりだろう。普段の姉といえば、ジーンズにバンドTシャツのようなカジュアルな出立ちだが、いま目の前にいる「姉に似た人」は、膝下の出ているドレスにハイヒールを履いている。ハイライトの入ったショートヘアもわたしが知っている姉の雰囲気とは合致しない。

声をかけようと試みるも、「あの、お姉ちゃんですか?」と声をかけるのも変だし、フルネームで呼びかけるとしても、こういう時は呼び捨てにするのか・さん付けをするのか…などと不毛なことをぐるぐる考えていた。少し離れたところからその人の後ろ姿を見つめて立ち尽くしている自分の滑稽さに気付き、姉に電話をかけることにした。

 

その女の人はすぐに電話に出た。

まぎれもなく姉だった。

 

車で待っていた夫に、姉と合流するまでの経緯を話すと「この状況で似ている人がいたらそれは正解でしょ」と言われ、ごもっともだなあと思いながら車内は笑いの渦に包まれた。

姉に「前を通り過ぎたのに気付かなかったよね?」と言うと、目が悪いから気付かなかったのだそうだ。結婚式なんだったらなおさら、コンタクトぐらいちゃんと付けておけよー!と突っ込みたくなるが、適当な姉らしいなと思った。

 

 

見た目こそ、一度だけ「双子ですか?」と言われたことがあるが、姉とわたしは似ているようで全然似ていない。服装の好みも性格も全然違う。性格的にわたしは尖っているけれど、姉はのほほんとしている。お酒をごくごく飲むわたしに対して、姉は好んでたくさん飲むタイプではない。わたしは中高と運動部で体育会系、姉は中高と帰宅部で高校時代はバンドをやっていた。思いつきで色んなところに出かけたり突拍子もないことをするわたしのことを、姉は勢いで行動するタイプだと揶揄している。

 

 

姉と合流してから我が家へと向かう車内では、わたしがいつも聴いている曲のシャッフルリストを流した。クラムボンハナレグミ、いちいち「これはあの曲だね」と後部座席で反応している。姉は椎名林檎の『ここでキスして。』のカエラちゃんカバーを口ずさんでいた。そういえば、まだ実家に住んでいた頃にふたりでよくカラオケに行ったことを思い出した。声質が似ているので、ハモると最高に相性が良かった。わたしの音楽の好みは姉ちゃんの聴いていた曲やアーティストから派生している。

 

我が家に着いてから、昼間に近くの美味しい精肉店で買っておいた焼肉用盛り合わせをホットプレートで焼いて食べる。いつもはもっぱらハイボール派だが、来客ならばと買ってきたアサヒ生ビールで乾杯して、久々の再会を楽しんだ。

ビールを飲んだあとはこれ、と冷やしておいたスパークリングワインを冷蔵庫から取り出す。夫はどうしても姉に開けて欲しいらしい。姉はあんまりやったことがないから怖い!と最初は嫌がっていたが、わたしは「姉ちゃん、こういうのは身内が居る時に慣れておくのがいいんだよ」とそれっぽく諭した。

姉は顔を歪ませながらコルクを引っ張った。ぽんっという気持ちのいい音の後にワンテンポ遅れて、姉の「ぴえええええええ」という叫び声が響き渡った。

夫は涙を流すほど大爆笑して満足そうにしている。なぜならわたしがスパークリングワインの栓を抜いた時とまるっきり同じ反応だったからだ。

 

夫によって姉ちゃんとわたしの共通点が明るみになるのは、小っ恥ずかしくもあり、愛おしい瞬間でもあった。長年遠く離れて別々に暮らしている兄弟でも、根底に流れているものはだいたい同じらしい。