墓参り、江ノ島の夕日

これは11月11日から、文学フリマに合わせて東京や地元の水戸、その他関東近辺を旅した際の記録です。前記事はこちら。

水戸駅、バーミヤン、駆け込み寺 - ぬか漬けは一日にしてならず

墓参り

旅3日目。Cが車を出してくれ、母方の先祖の墓のある大洗まで墓参りに行った。東京に滞在する時間よりも水戸にいる時間を多く取ったのはこのためだった。大洗はCの好きな有名なアニメの舞台になっており、わたしが墓参りしている間、聖地巡礼しているねと一人の時間を作ってくれた。

 

国道51号線沿いのセブンイレブンで買った二束入りの線香に点火を試みる。これはわたしが煙草を吸えない理由の一つでもあるのだが、わたしはライターが怖い。小学生のアルコールランプの実験から火が怖くて大量の水が側にないと火が付けられない。表面が燃えては消えての繰り返して、結局バラして7本だけ点火した。

 

思えばこれではいつも誰かと一緒に墓参りに来ていた。遠い記憶を辿れば大叔母も祖母も伯父もいて、父と母、姉の家族四人で来たことが一番多かったはずだ。結婚話がもつれて父親と冷戦中、父の怒号を受けつつ母と二人で来たこともあった。

 

でも、自分だけで来るのはこの日が初めてだった。寂しさと同時に、一人で墓参りに来るくらいわたしはもう大人になってしまったことを思い知らされる。去年、祖母が亡くなって、まるで自分の一部がちぎれてしまったくらい毎日泣いて過ごしていたのに、今ではもう墓の中にいることを受け止めていて、この日の晴天の清々しさを感じてさえいた。

 

墓参りを終えた後、大洗で海鮮丼とあん肝を食べ、水戸の中心街に戻ってからは新しくできた水戸市民会館を見学しつつ、泉町仲通商店街のSOTO COFFEEさんにてコーヒーとクッキーをいただいた。

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当たり前のように店員さんがコテコテの茨城弁で話してくれるのが嬉しい。北関東以外の人に伝えるのは難しいが、お洒落に言うと、茨城弁はフランス語のように語尾が上がる。

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今年、魅力度最下位に返り咲いた茨城県。多くの茨城県民が思っているのと同様に、わたしも良くやった!良く奪還した!と思っている。我々にとっては魅力度最下位こそがチャンピオンベルトのようなものである。

 

人生は不運な出来事の方が目立つけれど、水戸で生まれ育ったことはわたしの人生で起きた幸せな出来事のひとつだとこの旅で気付けた。

 

江ノ島の夕日

この旅程を組んだ時、本当はこの日の飛行機で帰る予定だった。でも、出発の一週間くらい前になって旅程を伸ばすことにした。

 

Cに水戸駅まで送ってもらい、次の目的地である藤沢へと向かう。この日から藤沢のホテルを2泊分取ってある。ここからは誰とも会う予定はない。なんとなく旅の見積もりだけはしてある。夜に宿につき、ようやく腰を下ろす。旅というのは気楽だが拠点がない分心細いけれど、今日からはしばらくここが拠点になると思うと、ふっと肩の力が抜けた。

 

旅4日目。藤沢駅からJRで鎌倉駅へ向かい、銭洗弁財天へ。地図を見ると結構歩くらしい。駅から北西へ進んでいくと、飲料メーカーのドライバーさんがコンテナをぶちまけるという漫画のような瞬間に遭遇した。目の前に散らばる大量のペットボトル。せめて車道にはみ出ないよう、転がるペットボトルをわたしも慌てて抑えた。漫画ならここで恋が始まっているところだが、現実なのでただシンプルに励ましの言葉を残して立ち去った。

 

到着時刻的にはそろそろ着きそうな頃、突如急な坂が出現。一体いつまでこの坂は続くんだと途方に暮れかけていると目の前に洞窟のような道と鳥居が現れた。

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石の長いトンネルをくぐると、そこには本殿があった。駅から向かう平坦な道と比べると、空気が一段階や二段階もひんやりしていたような気がする。

 

ざると蝋燭などの参拝用セットを購入し、初めての銭洗いに挑戦。濡れたお札を入れるための袋も売っていて、(いや要らないでしょ)と内心思ったが、いざお札を洗ってみるとどうしよう……となるのでこれから行く機会がある人にはおすすめしたい。結果、ウェッティーな英世はティッシュに包まれながらバックの中でひっそりと過ごすことになった。あと多分、本当のお金持ちになれる人はここで諭吉を洗える人だと思う。

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再び石のトンネルをくぐり、鎌倉駅にてくてく戻る。今度は方角を北東に変え、小町通を通り抜けて鶴岡八幡宮へ。食べ歩きグルメの誘惑に負けそうになりながら、結局みたらし団子だけ買った。あっさり負けた。ちなみにカレーパンも食べたかったがめちゃくちゃ並んでいたので断念。

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それにしても絶好の鎌倉観光日和ではないか。青空と鳥居の朱色のコントラストの綺麗さよ。

そして、なんと中学一年生の修学旅行以来の鶴岡八幡宮。当時の集合場所であった舞殿、記憶ではもっと広いものだと思っていたら実際は想像の半分くらいだった。子供の頃に訪れた場所が案外コンパクトだったと大人になってから気付くことはよくある。

 

配偶者が大事な試験を控えているので、銀杏の形の絵馬に合格を祈って書いた。その後、鳩や池を泳ぐ鴨を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごした。空を飛ぶ鳥も良いが、わたしは水を泳ぐ鳥が好きだなあと思う。

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その後、豊島屋で鳩三郎キーホルダーを購入し、漬物屋で漬物を購入し、足早に鎌倉を後にする。今日の一番の目的は江ノ島で夕日を見ること。思いの外漬物屋に長居してしまったせいで、江ノ電では寄り道することなく江ノ島駅へ。

 

ほどなくすると江ノ島タワーが目に入ってくる。西日が眩しい。江ノ島、前は誰と来たんだっけな、と記憶を掘り起こしてみたけれどすぐに埋め戻した。この辺り、大学時代にも先輩や友人など色んな人と来たなと懐かしい思い出が蘇る。

 

江ノ島駅に到着したのが15時すぎ。もう日が低くなり始めている。このまま江ノ島神社のあの階段を登るのか、時間的にも体力的にもきついなと思っていたら視界に飛び込むエスカー(江ノ島には階段をスキップできるエスカレーターがある)。ご利益が少し減るのではないかと心配しつつも、勇足でチケットを購入していた。

 

江島神社にお詣りをしつつ、基本的に早足で進む。夕日の見えるスポットまでは島をぐるっと回らないといけないので先を急ぐ。

この日の日没は16時半頃。江ノ島を半分くらい過ぎた頃、まだ30分くらい余裕がある。このまま行くと逆に時間が余るかと思っていたら、商店のラーメンのディスプレイに目が止まった。今日は朝ごはんを食べただけでみたらし団子以降何も食べられていない。

 

表ではさざえのつぼやきや焼きはまぐりが売られているなか、それには目もくれることなく入店。シンプルなラーメンが食べたい。温かいスープが飲みたい。

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いざ着丼。なんの変哲もない醤油ラーメンだが、肌寒い一日を歩き回った身体には抜群に沁みた。オフィス街の牛丼屋であるかの如く夢中でラーメンを食べ終えると、夕日を見る準備は万事整った。

 

奥津宮で最後のお参りを済ませると、これまで登りが続いたのに、下りの階段が続々と登場。すれ違う人たちが揃って息を切らしながら登ってくる。さてはみんな運動不足だなと、この数日一日二万歩近く歩いたわたしは高みの見物で通り過ぎようとした。その時一人のおばさまが放った「こここそエスカー必要じゃない?」という一言が耳に残る。数十分後、わたしはこの言葉に大きく頷くことになる。

 

踊り場にたどり着くと、待ち受けていたのはこの景色だった。

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ここからはもう言葉は必要ない気がする。いつか見た江ノ島の夕日。いつかまた見たいなと思って、いつの間にか今日になってしまった。わたしはしばらくの間、夕日が沈みゆく光景をずっと見つめていた。